平成11年度 総合目録データベース実務研修

情報サービス機関としての図書館

日時:平成11年9月24日(金)・10月19日(火)
会場:本館4F DB研修員室
講師:永田 治樹(図書館情報大学 教授)

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1.(内容)
 本講義では、大学図書館活動が目指すべき方向を確かめ、そのサービス活動の構成について論じる。また、付論として目録情報データベースに関する規則・基準の動向を紹介する。

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2.図書館のうちとそと
 大学図書館活動の基軸をなすコレクション構築について、図書館員はその権限がないことをなげくが、しかしそのスキルをもたないことを棚上げにしている。一方、教員は、自分たちの行動が図書館活動に与えている重要な影響を見ていない。双方が相互に理解し合うのは容易ではない。
 両者の立場を踏まえた全体的な状況把握が必要である。
一般的にいえば教員の側に図書館の改善を求めるのは困難である(開発部分を教員だけに委ねるのもうまくは行かないだろう)。教員・学生という利用者(顧客)を見据えた、図書館員の主体的な活動努力が望まれる。

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3.何が問題か
 顧客が求めていることを正確につかんでいるだろうか?
 誤解を恐れずにいえば、「利用者(顧客)が求めているのは、図書館のサービスでもないし、図書館員のサービスでもない。情報の入手そのものであり、そのサービスを享受する際の、すべての快適さである。」

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4.大学図書館員にとって重要なこと
 米国のミドル・アトランティック地域の大学で働く図書館員を対象にした、図書館活動としてあるいは図書館に影響を及ぼす上での重要度を7段階で評価する調査(McDonald & Micikas、1994年)。95項目のうち、高い平均点数をとったもの。
 逆に、この調査で最も低い点(2.479)は、「学生は図書館資料の選択にたえず関わる」であった。
 図書館員は、MARCレコードのようなものに重要性をおき、利用者(顧客)が関わる事柄を重要だとは考えていないのだろうか?
 また、Van HouseとChildersが1993年に行った、7つの違ったグループ(評議会、政府の役人、管理者、図書館スタッフ、利用者)に対する62のサービス項目(開館時間、スタッフの友好性など)に対する意見の比較調査では、各グループ間では相違点よりも類似点が多かった。しかし、注目すべきは、図書館利用者の意見はコミュニティのリーダー(0.86)や、地方の役人(0.80)、友の会グループ(0.88)との類似が高く、一方、図書館管理者(0.57)や図書館スタッフ(0.58)、そして図書館評議会(0.65)との相関度はそれよりも低く、相互に近似的でしかなかった。→図書館のそとの見方とうちのみかたとは、必ずしも一致していない。

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5.顧客へのまなざし
 Bob McKeeがその著書"Planning Library Services."で図書館員はどのように利用者を呼ぶかについて議論している。大方の従来の呼び方(reader, borrower, patron, user, client)は、パッシブな、供給主導な意味合いにあるものが多いという。図書館は積極的に働きかける組織ではなく、情報を供給するだけの、利用者の要求を汲み取るという姿勢がない組織だと考えられるというのである。そして、それではまずいので、今後は積極的に対応する対象としてのcustomer(「顧客」)と呼ぶべきだと主張する。
 この指摘を受け入れたい。ただ、学生に対してもそうなのかという抵抗感があるかもしれない。彼らもまた重要なお客さんである。お客さんとは、特定のサービスを選ぶ人、ほかでもないそのことを行う人をいう!
 図書館員の中には、顧客(とくに学生)には情報サービスの質に対してきちんと判断できないという考えがある。たとえ、このことが正しいとしても、どんなサービスでもプロセスと結果との両側面がある。プロセスというのは顧客の扱われ方の問題である。それは丁重さや明確なコミュニケーション、顧客の要求への注目などである。

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6.リーズ・メトロポリタン大学のサービス水準協定(8領域)
 顧客への配慮を提示するものとしての、サービス水準協定(例示は、英国のニュー・ユニバーシティの一つ、リーズ・メトロポリタン大学図書館が顧客と結んだもの)がある。
 この種の協定は近年米英の大学ではごく一般的にみられる。注目すべきは、協定をモニタリングし、相互に評価するという仕掛けである。一定の期間ごとに、双方で確認し合う。
 こうした試みは、誰が顧客なのかということをはっきりさせ、大学図書館に対して顧客がどのようなサービスを望むかを確認できる。ごく基本的なものが列挙されているとともに、新しいサービスも枠組みに順次取り込まれている。これらは、教員や学生と図書館との定期的な話し合いの中で作られる。
わが国では、図書館が教員との話し合いを重要だとは認識していないふしがある。図書館がコレクションをどうしていくのかといった基本的な問題を考えにくい状況にあること、そして自分たちの権限は人から指図を受けたくないという気分からきているものと思われる。しかし、この態度は、今後の図書館運営において困難を生じさせよう。

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7.情報サ-ビスとは(1)
 図書館サービス・情報サービスとは、どのようなものか。まず、サービスとは何か。 人々がほしがるものにモノとサービスとがあるというのが、経済学で最初に学ぶところである。モノはよくわかるが、一般に使われるサービスということばは、少し意味に曖昧さがある。ここでいうサービスとは、引用した定義で述べられているように、人が提供する効用のことである。
 図書館サービスはこれまでは、図書・雑誌というものを館に収集し、提供することが中心であったから、物的製品に結びつく形で展開されてきたといえる。

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8.情報サ-ビスとは(2)

 1)サービスは基本的には人の活動であり、形がない。したがって、モノとは違って持ち運びもないし、作りおきをしておくこともできない(流通も在庫もない)。
 流通も在庫もないから、レストランでも、あるいは通勤電車でもお客が多すぎると応対が悪くなり、サービスは低下する。低下だけならばまだしも、ゴールデンウィークなどには人気の宿泊施設などはとれない。つまり、サービス市場は時間と空間で分断されている。(図書館の位置と開館(サービス)時間)
 必ずしもそうでない場合がある。というのもサービスがモノに体化されると、それなりにモノ場合と似たようなことがおきる。たとえば、サービスの成果がモノとしてまとめられる場合(シンクタンクの報告書など)は、もちろん流通も在庫もできる。また、ホテルや遊園地のサービスは、予約という形でサービスを近似的に流通させることができる。国際便の航空券はそうした在庫販売によって格安航空運賃ができたりする。
 さらに、形がないということは、顧客にそれを明示しえないことであるから、顧客はある程度リスクを覚悟でサービスを購入することになる。それをいかに低減させるかが、サービス・マネジメントの重大な課題となる。モノやイメージに代えて宣伝する、たとえば、整形美容のためのグラフィック・ディスプレイのようなものがある。しかし、必ずしも同じように手術ができるわけではなく、失敗もある。顧客の側からいえば、はじめてサービスを利用しよとする場合、リスクを負わねばならないためにはなんらかの回避策を求めようとして、例えば、評判などを頼りにする。(図書館が魅力的なサービスを始めてもよい評判を勝ち取らなければ、顧客はつかない)

 2)サービス活動の対象が人である場合、サービスは生産と同時に消費される。医療や、理容・美容などのサービスでは、その場でサービスが生産され、即事に消費されるのである。こうしたサービスは元に戻すことはできない。
 この生産と消費の同時性はまた、第1の性質と同様に、サービス生産における時間と場所の重要性を意味している。人出が多いところや、特定のサービスが可能なところがサービス業の立地であり、顧客の都合のよい、休日でもサービス業は店をあけることになる。(固有サービスが欠けた祝日開館の限界)

 3)サービスは顧客との共同生産である。第1と第2の特徴がサービスの制約条件となるのに対して、これはむしろサービスの利点となる。顧客がサービス提供者に協力するケースや、自分自身にサービスをするなどといったことがある。セルフサービスのお店などが典型である。利用者との関係で気まずい状態になったりすると、サービスは順調には展開しない。あるいは逆にうまくいく場合はサービスの品質が高まる。
 またこの性質は、サービスが顧客ごとに違うといった多様性を許容するものであり、顧客の要求に適合するようにしなければならないということを意味する。(よいレファレンサーは、お客の質問をうまく引き出す)

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9.情報サ-ビスとは(3)
 図書館における情報サービスは、これまでは図書・雑誌にモノ化した情報を提供するサービスであった。今ではそれに加えてCD-ROMやDVDのような新しい媒体や、さらにはネットワークを通じて情報の提供が行われるようになっており、図書・雑誌も、新しい情報サービスも扱うという意味で、図書館サービスはハイブリッドなサービスである。
 サービスという活動の中身を考えてみると、さまざまな局面を持つ。たとえばホテルにおける宿泊サービスでは、人をもてなすことを基本として、建物・設備というモノを使い、施設のあちこちにある案内などの情報もサービスとして提供されていると考えられる。多くのサービスはこのように、人・モノ・情報という三つの対象に働きかける人間の価値生産活動であり、サービスの種類によって、その主要な部分が異なる。
 われわれが扱うサービスは、モノや人を対象と(あるいは活用)するサービスが多いなかで、情報を主体とするものであり、昨今急速に増えつつある領域である。 変幻自在な情報は、モノに体化した図書・雑誌などとしても、あるいは新しいメディアを使ってのものもある。もちろん、人に対する部分もある。

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10.モノ・サービス・情報
 モノは有形であり、それぞれの材質により、すぐに減ってしまうものもあれば、耐久するものもある。それに対してサービスは無形なものであるとともに、それはその場で消滅してしまう。情報は、音声チャネルなどに乗っていればその場で消えてしまうが、記号として保持されれば、消滅しないという面もある。
 操作性は、モノは形があるから高い。サービスは一部モノに体化でき、その限りで操作可能となる。たとえば、レトルト食品は、モノとサービスの混合物である。あるいは、サービス動作を体化した銀行のATMや図書館の自動貸し出し機がある。情報もモノに体化できる。図書や雑誌という印刷物に体化して、これまでわれわれは扱ってきた。大切なことは、体化された情報はモノから取り出せるという特徴をもっている。しかし、サービスの場合はそうは行かない。レトルト食品はあくまでもレトルト食品の形で消費される。
 モノは有形で運搬でき、サービスは形がないので運搬できない。情報は基本的にモノに体化されるのが常だから、運搬できるといってよい。それに新しい運搬路(情報ネットワーク)では、光のスピードでやりとりできる。
所有権に関しては、モノには所有権が設定でき、無形のサービスには所有権はない。情報は無体であっても、記号として保持され、モノに体化されても取り出し可能なため、所有権が認められている。

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11.クオリティ・サービスとは
 サービスがよいとか、質が高いという判断は、観察者の目にある。顧客がこのサービスの品質はいいといえば、それは良いのである。
 図書館において顧客が望むところを理解するのは難しくはない。自分の要求にあった資料を簡単にさがせ、もし複写が必要ならば、機械があって容易に使えるとか、探しているものがみつからないとしたら、スタッフに支援が頼め、的確にそして丁寧に応えてもらえる、また、読書をするのに静かな場所がみつかるなどである。要するに、求めることが求める環境で提供されることであり、その逆、つまり荒っぽくあつかわれたり、遅れたり、無視されたり、たらい回しにされることでは決してない。
サービス市場では、モノの場合とは違って、サービス提供が対人関係の中で行われることが多いために、客観的な効用だけでなく、主観的な感覚や感情がサービス過程に入ってきて、サービスの全体的評価を左右する。

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12.サービスの価値
 顧客価値は、顧客が「支払った総コスト」と「獲得したもの」の比較によって決まる。サービス価値は、したがって、獲得したサービス品質とコストの比較であり、前者は、上述したように顧客が知覚した主観的な価値となる(サービス価値=サービスの品質(結果と過程)/(価格 + 利用コスト)、ただし、サービスの品質=サービス実績 - 事前期待である)。
 また分母の、顧客が負担するコスト(価格と利用コスト)も、モノの価格に比べると主観的要素を多く含んでいる。図書館の場合でいえば、価格がついているのは情報サービスや文献複写といったものである。利用コストは、移動コストや時間コスト、それに精神的なコスト(横柄な態度をとる病院にはいきたくないなど)も入る。

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13.顧客のサービス品質評価
 問題は、分子のサービスの品質である。
 フェデラル・エクスプレス社(127カ国、従業員9万人)では約束の時間にとどかなければ、お金を返す方針を立て、顧客の不満足パフォーマンス指標を作成し、毎日品質パフォーマンスとしてチェックをする体制をとっている。この方法は、マイナスの観点から品質計算をする方法である。
 ここに引用したのは、SERVQUALというサービス品質測定方法である。これは1980年代にパラスラマン、ザイタムル、ベリーという三人の経営学者が、どのように顧客がサービスの品質を把握しているかを、主にインタビュー調査によってデータを得て、導き出した知見である。
 受け取ったサービスの品質は、顧客の期待と受け取ったサービスの実績の差にある。その顧客の期待は四つの要因によって決定される。特にその評判で、口コミが重要な役割を果たしている。あるいは、それをどれほど欲しているか、また同様のサービスについての過去の経験、あるいは広報活動が期待を構成する。一方、受け取ったサービスについては、顧客の判断基準はさまざまなのであるが、それを統計的にとりまとめてみると、ある程度同じような点を顧客は判断尺度にしており、左の10の観点があげられるというのである。

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14.図書館サービスの品質評価の局面
 SERVQUALで指摘された10の局面を図書館で考慮したものとして、英国図書館協会高等・継続教育グループ(CoFHE)のサービス品質点検領域がある。ただしここでは、14の項目が挙げられている。

1. アクセス 顧客のニーズに合致した場所、開館時間
2. 外観 図書館やスタッフの様相やイメージ。スマートで、モダーンで、かつ魅力的か
3. 雰囲気 雰囲気は歓迎的で友好的か
4. アベイラビリティ 設備はわかりやすく、サインがよく、使いやすいか
5. 清潔 書架と閲覧の場所ともに清潔できちんとしているか
6. 快適 物理的な快適さと一般的な雰囲気
7. コミュニケーション スタッフはうまくコミュニケートしているか。サインやガイド の明確さ
8. 丁重さ スタッフの顧客に対する丁寧さ、敬意、そして礼儀正しさ
9.信頼性 最新情報、知識、学習機能や支援機能が装備されているという図書館の評判
10. 友好性 スタッフの顧客に対する有用性、注意深さ
11.確実性 サービスについての確実性と能力
12.安全性 顧客の安全とセキュリティ
13.物的条件 建物、設備、その他の物的な機能が適切・有用であること
14.理解 顧客の特定要求やその周辺状況の理解

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15.ビジョンの構築
 図書館がその存在の正当性を確保し続けるためには、顧客に評価されるサービス、顧客の要求に見合うサービスの提供が不可欠である。そのために、顧客がどのようなサービスを求め、どのように評価するかを理解し、そこに見出されるいくつかの基準を踏まえて、サービスのビジョンを構築することが必要である。
 また、図書館の活動態勢の整備という課題も大きい。図書館の活動のあり方は、かなり古臭いものになっている。国立大学では10年ほど前、整理の組織を情報管理、閲覧等サービスの組織を情報サービスという名称変更したが、中身はほとんど変わっていない。組織は作業工程ごとの分業体系として、内部的な都合を先行させている(?)ために、サービス展開結果をきちんとフォローできない場合がしばしば存在する。顧客へのサービスの結果・プロセスに徹底的に注意し、図書館サービスのプロセスの再設計をする必要がある。

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16.目録情報に関する最近の動向
 IFLAによって"Functional Requirements for Bibliographic Record : final report." が1997年に公表された。パリ原則とISBDによって打ち立てられた国際的な目録原則・基準が現在でも有効なものとして継承されてはいる。しかし、近年の環境の変化(例えば、書誌制御の自動化システムとデータベース、出版量の増大による経済的逼迫、電子出版の出現など)はめまぐるしく、当分はゆるぎがないと思われていたこれらにも、見直しがかけられるようになった。
 また、この報告を受けて、目録規則のレベルでの動きも出始めた。一つは、同じく基本的な目録情報のデザインに関するもので、1999年に刊行されたAACR JSCの "The Logical Structure of the Anglo-American Cataloguing Rules."である。もう一つは、さらに具体的な規則変更に関する提案としての "Revising AACR" to Accommodate Seriality."(1999)である。

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17.書誌レコードの機能要件
 書誌レコードの実体・関係モデルによる分析で、目録の機能要件を再検討したものである。情報科学の成果を踏まえたこの種の分析は目新しいものではない、この新しさは、利用者の作業に着目した分析手法にある。
 利用者の作業は、発見(find)・同定(identify)・選定(select)・入手(obtain)と把握された。その結果、目録記録の対象は、知的・芸術的創造の所産である著作(work)、著作が表現された特定の表現形(expression)、著作の表現形の物理的な体現としての実現形(manifestation)、実現形の個別の提示物としての記述対象(item)という実体と、個人、団体、概念、オブジェクト、イベント、場所といった実体が設定された。
 これらのそれぞれの属性がマッピングされるとともに、各実体間(それ自体とも)の関係と利用者の作業に対する属性と関係のマッピングが細部にわたって検討されている。さらに、全国書誌レコードのため必須データが列挙されている。

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18.Serialityについて
 電子資料の出現によって最も影響をうけたのが、逐次刊行物の関わる目録基準・規則である。  電子ジャーナルがネットワーク上で公刊されるようになったばかりか、ウェブによる情報の「出版」が一般化する中で、これまで逐次刊行物に限定していたいわば「オンゴーイングな出版」概念が流動化し、単行書扱いであった、ルーズリーフ出版や補遺出版の問題、それに更新されていくデータベースの問題までを視野に入れた再検討が行われた。新たにFiniteとContinuingという区分概念が導入された。また、データベースなどのIntegrating Resourcesの問題も取り組まれている。
 逐次刊行物すなわち継続資料については、利用の観点に立ち、最新号に基づき、かつ全体を押さえた記録が求められるようになったし、また軽微な変更をタイトル変更とはしないなどの提案が行われている。
 これらは、われわれの目録データベースの構成を大きく変えるものである。