平成6年度学術情報センターシンポジウム

次期目録システムの構想

学術情報センター研究開発部

教授 宮澤 彰

新しい環境

 NACSIS-CATシステムが施行運用を初めて今年12月でちょうど10年となる。この間に情報システムのためのハードウェア,ソフトウェア環境は大きく変化して来た。ハードウェア面では,小型化と高速化を達成したいわゆるダウンサイジングが起こり,ソフトウェア面ではオープンシステム化,クライアントサーバ型のシステム,そしてグラフィックユーザインターフェース(GUI)といった潮流が一般的なものとなってきている。
 NACSIS-CATやILLのユーザである図書館システムは,業務システムの常として保守的であるものの,90年代に入ってこれらの新しい潮流は無視できなくなってきた。これにともなって,センター側のシステムであるNACSIS-CATやILLも新しいハードウェア,ソフトウェア環境に合わせたものとして,変化せざるを得なくなっている。

XUIP

 新しい図書館システムは,そのほとんどがオペレーティングシステムとしてUNIXをベースとしたものになりつつある。この変化にあわせて全体が新しい環境に移行するまでの「つなぎ」として開発したものが,UNIX上で稼働するUIP - XUIPである。センター側のサービスシステムは旧来のままで,ローカル側の新しい環境から,目録システムを使えるようにするためのものである。センター側のサーバシステムも新しいもの - 「次期目録システム」になれば,ローカル側でもXUIPに変わる新しいクライアントシステムが必要になってくる。

NACSIS-CAT及びILLの移行の段階

CAT及びILLシステムはかなり大きなソフトウェアシステムであり,特に大規模のデータベースを抱えている。これをスムーズに新しいシステムに移行するためには,段階的計画が必要である。特に300を超すローカル側システムとセンター側システムを一度に新しいものに更新するということは不可能であり,幾つかの古いシステムと新しいシステムの混在という時期がどうしても必要である。
 XUIPを使用して,ローカル側の環境が新しくなっても従来のCATシステムが利用できるようにするのが,第1段階である。センター側での第2段階はデータベースサーバの分離である。従来のメインフレームコンピュータに,CAT,ILLのローカル側とのインターフェースを残して,データベースを別の新しいハードウェアシステムに移行する。この段階はローカル側システム,UIPやXUIPには何も影響ない。
 次の段階は従来のCAT,ILLシステムと並行して,新しいCAT,ILLのシステムを立ち上げることである。当然,データベースサーバには,従来のCATや新しいCATシステムの双方からアクセスし,書き込むことになる。ローカル側システムでは旧来のUIPやXUIPではなく,新しいクライアントシステム(ここでは,仮にCATクライアント,ILLクライアントと呼ぶ)が必要となる。もちろん,旧来のUIP,XUIPを使用しているユーザのために第2段階のCAT,ILLサービスシステムも運転を続ける移行期である。
 最終的には全てのローカル側システムが新しいCATクライアント,ILLクライアントに移行して,古いCAT,ILLシステムのサービスを廃止して移行期が終わる。
 なお,第2段階以降では,CAT,ILLシステム以外の新しいサービスシステムが同じデータベースを利用して展開されるようになるであろう。

図:NACSIS-CAT,ILLの移行の段階

新CAT,ILLシステムの機能

 新しいサービスシステムと新CATクライアント,ILLクライアントの組み合わせになると,旧来のCAT,ILLシステムとどのように変わるか,ということは現在のユーザである図書館にとってもっとも関心のあるところと思う。残念ながら,まだ基本設計もされていない段階では,具体的な姿を示すことはできないが,現在実現性を検討しているいくつかの機能を紹介する。
 現在は,時差更新という仕組みでレコードの書き込み,修正を行っており,このため運用時間に制限を設けざるを得ない。新システムでは時差更新を廃し,24時間運転が可能となるような方法を考える。
 従来の目録システムでは,書誌レコードのALフィールドと著者名典拠レコードのHDNGフィールド,あるいは書誌レコードのPTBLフィールドとその親書誌レコードのTRフィールドなどリンクされたレコードの間で,ずれの生じるものがあった。これらはセンター側でのメンテナンスプログラムにより,整合性を保っていくようになっているが,運用上の問題から長期間不整合のままとなっているものがある。これらのフィールドについて,正規化もしくは即時更新の方法により,不整合が起こらないようにしたい。
 従来目録システム用文字セットの制限から,中国語,韓国・朝鮮語資料の目録が原則として入力できないという問題があった。新システムの場合データベース側では,ISO10646 USCを採用して,文字レベルでの入れ物を用意する。中国語,韓国・朝鮮語等比較的多数の資料のある言語については,索引語切り出し等の言語レベルについても検討する。ローカルシステム側とのやりとりはUCSまたは従来のJIS+EXCを選択できるようにする。ただし,UCSを利用できるローカルシステムが出来るまでは,JIS+EXCにない文字は実質的には利用できない。
 主としてクライアント側の作りの問題となるが,自動検索などを可能とするローカルシステムとのインターフェースをより密接なものにする。
 以上が現在検討している主な点であるが,細部についてはこれまで出てきている要望や今後の要望を取り入れながら検討していく予定である。

おわりに

 なお,新システムとなっても総合目録を作成維持するというCATシステムと,それを利用して複写,貸借の申込みをするというILLシステムの本質は変わるものではなく,その意味では本質的な機能は変化しない。新しい環境にあわせた変更とこれまでの運用の経験に基づく改良というのが,現在検討している新システムの機能である。
 つまり,新しいサービスの展開とその中での総合目録の利用という点が,本質的な変化である。このためにも新CATシステム自体は,多機能化,肥大化の方向でなく,むしろ総合目録の作成と維持という点に単機能化していく方が望ましいと考えている。
平成6年度学術情報センターシンポジウム(1994.10.13/1994.11.16)での講演
最終更新日
2023-11-06